3. ストーリー |
舞台背景 |
地は乾いていた。広大な地平線だけが認識の境界をかろうじて保たせる荒涼。そのところどころに植物の茎にできた虫こぶのように「箱」が点在する世界。人々の住む世界は、それら「箱」の中に存在する。その閉じた世界では、それぞれ個別の慣習や仕組みが積み上げられてきた。それはすなわち、他の「箱」からやってくる者にとって、それぞれ想像もつかない世界になっているということである。ゆえに、「箱」から出ていく者はほとんどいなかった。 私はウォルク。引越し先を探している。持てるだけのものをカートに詰め込み、入りきらないものは身につけ、私が住むべき「箱」を探す旅に出た。 住んでいた「箱」は、緑に包まれ穏やかで、また住人も皆穏やかだった。大きな不満があったわけではないのに、なぜか私は、この世界にずっと居場所のなさを感じていた・・・。 私の居場所たる「箱」は、本当に存在するのだろうか? |
第1章「Stranger In Paradigm」(旧題From Behind)あらすじ | ||||||
道などはない。誰もいない。私はただ一人歩んでいた。しばらくして、前方に四角いものが見えてくる。近づいていくとそれは「箱」であった。その「箱」は意外に小さく感じられる。私が暮らしていた「箱」もこんなものだっただろうか。 その「箱」の扉をくぐると、そこには街が存在していた。どう考えても縮尺が合わない世界。しかし、私は建物に囲まれている。人がいるのかわからないくらい静まりかえった建造物の群れ。でも、人はいるのだろう。ところどころ灯りが漏れている。路地を歩きはじめるとカートを引きずる音が建造物に反響する。 …そいつはいつの間にか私の背後に存在していた。 「カカシ」のようなヒョロヒョロのそいつはただ突っ立って何をするでもなさそうだったので、気にせず進むことにし。影のようにそいつは張り付いてくる。 ほんの少し歩くとカフェらしきものを見つけた。とりあえずお茶でも飲もう。なにしろカートのほかにも多くの荷物を身につけており、疲れている身体を休めよう。そしてこの街が住みやすそうかどうかじっくり見てみよう。 扉を開けると照明の暗い殺風景な店で3,4人の客がテーブルにへばりついている。その客たちの背後にもそれぞれ「カカシ」が張り付いていた。しかし、みな平然としている。 ああ、ここではそうなんだなと気がついた。
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第2章「The Wall」あらすじ | ||||||
あれからいったい何日歩き続けただろうか。ようやく新たな「箱」に辿り着いた。それがどんな世界であろうと、今はただ目の前に新たな「箱」があるということだけが自己存在を証明してくれている。 ドアをくぐるとすぐ、背筋が凍るような寒さが身体を走った。冷たい金属製の床にコツーンコツーンと硬い音を残響させながら、暗闇の中から「壁」が歩きながら近づいてくる。鈍い色をした金属に足がついたような生き物だ。「壁」は私を取囲み、一方通行の道を形作った。身の丈より少し高いその「壁」のせいで視界は狭められている。「壁」と「壁」の隙間から辺りを覗くと、この街の住人だろうか、やはり「壁」に囲まれながら歩いている。流れ者の私を警戒してのことだろうかと思ったが、どうやらそうではないらしい。 しばらく「壁」の作る道に従って歩いてゆく。するとやがて、「壁」は宿へと私を導いた。宿のなかでやっと「壁」から開放される。宿の中は暖かかった。これでやっとくつろげる。宿には不釣り合いな店番の少女に部屋の鍵を渡され、宿の最上階にある部屋へと案内された。窓から街を一望すると、この街の住人たちが「壁」に囲まれながら、「壁」が作る道に従って生活している様がよくわかる。 ラジエーターの暖かさと旅の疲れによって、私はもはや眠気に勝つことはできなかった。「壁」はともかくとしても、とりあえずきちんとしたベッドで寝るのはありがたいことだ。
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